――発売されることになった「リアル芸人交換日記」。拝見すると、この企画にトシさんはあまり乗り気ではなかったようですね。
トシ「そうですね、渋々と言いますか(笑)」
タカ「僕はやりたかったんですよね。やれるとなった時はうれしかったですね。意気込みが強すぎて、最初にけっこうな枚数書いてしまって(笑)、長すぎるんじゃないかという声が上がるぐらいで」
――思いの丈をぶつけた感じ?
タカ「そうですね。感情をそのまま一気に書いた感じですね」
――最初の段階で、こういう展開になるだろうなという予想はありましたか?
タカ「読めなかったですね。相方は感情をまったく表に出さないタイプなので、どこまで心を開いて、さらけ出してくれるかっていうのは不安でした」
トシ「予想はしなかったですけど、"なるほどね。はいはい"という感じでしたよ。想定の範囲内というか」
タカ「そうなの!? 俺は予想外でしたね~」
――今まで話してないようなことをかなりさらけ出しましたよね。
トシ「そうですね。どうせ書くんだったら、こいつが知らないことを書こうと思いましたし、誰にも言ってないようなことも書きましたからね」
――思いを全部入れ込めましたか?
タカ「全部は入れ込めてないですけど、でも、かなり伝えたいことは詰め込んだと思います」
――実は今日、見ていただきたい一文がありまして。2003年の「爆笑オンエアバトル」(NHK総合)の公式本なんですが。
トシ「うわ~、痩せてますね」
――この内容なんですけど。<タカ「今この取材を受けながら思ったんですけど、そういうコンビのコミュニケーションって取りにくいじゃないですか。でも、取っていかなきゃダメだなと思いました。交換日記とか」。トシ「気持ち悪いわ!! なんで交換日記するんだよ」。タカ「言いにくいことって、文章にしたほうがいいじゃないですか。恥ずかしがってる場合じゃない」。トシ「恥ずかしいじゃなくて、気持ちが悪い!!」>っていうやりとりをしてまして。
タカ「すごいな、もう言ってたんだ」
トシ「2003年の時点で」
――8年以上前から、タカさんはそういう思いがあった、と。
タカ「僕は心の中に思ってないことは言えないタイプなので、その頃から確実に思ってたんでしょうね」
トシ「芸人交換日記の原点だ」
タカ「この時の俺の真っ直ぐな思いをおまえはボケ扱いしたんだよ」
トシ「俺のブレない姿勢だな(笑)」
――確かにブレない(笑)。
トシ「ブレませんよ(笑)」
タカ「そういう意味じゃ、俺のスタンスもブレてないんだよね。コンビって絶対思いをぶつけたほうがいい、ってずっと思ってるから」
トシ「8年越しで形になったと」
タカ「そう考えたら、ホントにやってよかったですよ。無感情な...何も考えてないように見えるこの男が、ちゃんと考えていて、人間的な一面があるんだというのが分かったので、すごく安心しましたね」
――トシさんも今回「交換日記」をやって、改めて感じたことはありますか?
トシ「書いてることは、こいつが普段よく言ってることなんですけど、そういう思いがベースにあったんだなというのは再認識しましたね」
――拝見して思ったのは、トシさんは過去の出来事を比較的覚えていて、タカさんはあまり覚えていないという(笑)。
トシ「完全にそうですね(笑)。こいつは酒飲むんで」
タカ「なんかですね、海馬がどんどん小さくなってるみたいで、記憶が...」
トシ「酒をやめろ」
タカ「記憶がない」
トシ「酒をやめろ」
タカ「どんどん記憶が......」
トシ「酒をやめろ」
タカ「志村師匠とのやりとりだろ、これ(笑)」
――記憶は完全にトシさんのほうが。
トシ「そうですね、わりと覚えてますよ」
タカ「記憶を勝手に変えちゃう時があるんですよね、どうも記憶が...」
トシ「酒をやめろ」
――過去の記憶という意味では、タカアンドトシさんが地元・北海道で笑いを始める時に二人の間で決めたこと、というのは覚えてますか?
トシ「笑いのことなんて何も分からなかったので、とにかく、分かりやすい笑いをやろうというのはありました。シュールなネタは出来ないので、大人の人も子どもの人も、みんなに笑ってもらえるもの......そこでいこうと」
タカ「北海道は芸能事務所がなかったから、オーディション雑誌で情報をチェックして、テレビに自分たちのネタをビデオで送ったり、そういう毎日でしたね。当時思っていたのは、とにかく今出来ることを全部やらなきゃ、っていうことでした。それで、ネタばっかり書いてましたね。最初のうちは全然おもしろくないけど、書いてるうちに少しずつコツをつかんできたりして、とにかく必死にネタを作ろうと思ってました」
――札幌の吉本入りを決めて、直後はわりと順調に番組が決まったそうですね。
トシ「最初はそうですね。僕ら、初めてテレビのオーディションを受けに行った時に、目の前のプロデューサーさんがスッゲー笑ってくれたんですよ」
タカ「"君ら、すごい!"ぐらいのこと言われて」
トシ「一瞬、あ、俺らスゲーんだって(笑)。帰り道、かなり満足して帰ったの覚えてますね」
タカ「スタートは順調でしたよね」
――その後、東京に進出するようになって、壁にぶつかったり、失敗したりということは......。
タカ「そんなのばっかりですよ」
トシ「まず、パンクになろうとしてましたからね、こいつは。ロックンローラーを目指すかのようなスタイルで漫才やってましたし」
タカ「いや、でもね。今こうやって振り返った時に、全部ネタになるんですよ。"なんだよ、これ。なんだ、あの髪型は"とか。だから、いろんな経験したほうがいいんですよ。後で気付けばいいんですから。気付かないでいったら、ヤバいですけど。絶対に若いうちはエピソードを残すためにもめちゃくちゃやったほうがいいんですよ。生放送で放送禁止用語をバンバン言ってやったりとか」
トシ「やってないだろ」
タカ「やれないタイプですけど(笑)」
――ちなみに、自分たちのスタイル......洋服や髪形など、これは違うなと気付くきっかけはあったんですか?
タカ「途中で、ダイエットしてオシャレしてもモテないって気付いたんです(笑)。どうしたらモテるんだ、って考えた結果、お笑いで売れてテレビに出たらモテるだろう、ってことで。とにかく、漫才の邪魔になる格好はやめよう、と。服もかわいらしい感じに変えていきました」
――その変化は隣りでどうご覧になってたんですか?
トシ「基本、昔から格好は変わってたので、驚くっていうのはなかったですね。だって、いきなり普段からスーツで過ごしてみたり、もうあっちゃこっちゃいってたんで......(笑)。一番ヒドかったのが、僕が坊主になった時に、その坊主をイジるようなネタがあったんですけど、その頃、急にこいつもCMでベッカム見てカッコイイと思ったとか言って、ベッカムヘアにしてきて、W坊主になっちゃいまして。ただの痩せた坊主二人という......(笑)。アマチュアでしたね、完全に(笑)」
――しかし、これではいけない、と気付き......。
タカ「やっぱり大きかったのは『M-1』ですよね。漫才の足を引っ張ることはやめようと。そこで思えたんですよね。大きな変化はそこでした」
――そういった経験を経て大活躍されているタカトシさんから、今お笑いを目指す皆さんにアドバイスはありますか?
トシ「これという答えなんてないと思うんですけど、いろいろやってみることじゃないですか。服ひとつとっても、試してみる。失敗も多いと思いますけど、やってみないと分からないですし」
――最近は、後輩からアドバイスを求められたりというのも多いんじゃないですか?
タカ「それが、ないんですよね(笑)。だから、こっちからいうようにしてます。"そろそろコンビ名変えたほうがいいんじゃないか"とか」
トシ「ありがた迷惑だよ(笑)」
タカ「でも、やっぱりね、芸人はネタなんですよ! それしかない。ネタがスゲーおもしろかったら、いけますから。とにかく、必死にネタを作れと、こっちから言ってるんですけどね......なかなか聞いてくれません(笑)」
トシ「聞く耳を持ってもらえるようにな(笑)」
――では、最後に今回の本「リアル芸人交換日記」をこんなふうに楽しんで欲しい、というメッセージをお願いします。
トシ「僕は、とにかく恥ずかしいんですけど、でもせっかく出すので、売れて欲しいとは思うんですよね。だから、買っていただいて、読まないというのをお勧めしたいですね(笑)」
タカ「本の最終ページのほうから見ると、直筆で書かれたものが載っているんですよね。そうすると、字の雰囲気とか、キャラクターみたいなものも見えてくるので、そっちから先に読むのもおもしろいと思います」
――ちょっと書いた時の思いも見えてくるような気がします。
タカ「そうなんですよ。あと、なんとなくなんですけど、コンビってちょっと字の雰囲気が似てたりするんですよね。それも直筆のページでは見てもらえるので、ぜひチェックしてみてください」
(取材=2011年12月某日)
取材・文=田部井徹(トリーヌ) 撮影=梅木麗子