──「三十路女はロマンチックな夢を見るか?」の台本を読まれたときの第一印象はどういうものでしたか?
タイトルにすごくインパクトがあるなと思いました。ストーリーは落ちがものすごく面白くて、台本を読みながら私も最後までダマされてました。こういうお客さんをダマしていく感じの作品はやったことがなかったので、ワクワクしました。
──監督の山岸謙太郎さんはインディーズ映画で活躍なさっている方ですね。
山岸監督とはお会いしたことはなかったんですけど、共通の知り合いがたくさんいて、近い距離にいたので親近感がありました。映画に対する思いも語り合いましたし、撮影は1年以上前なんですけど、いまだに何ヶ月かに1回は山岸監督や共演者の皆さんと集まってお酒を飲みながら映画の話をしています。
──いいチームだったんですね。撮影中は山岸監督とはどういうことを話したんですか?
私は撮影中は25歳だったので、30歳直前の女性を演じられるか、プレッシャーが正直あったんですけど、監督は「30歳前後の人よりも、30歳に対して未知の部分が多い人に、30歳ってどういうものなんだろうって色々考えながら演じてほしい」とおっしゃっていたので、モヤモヤしたものを抱えながら演じていけたらと思いました。
──主人公の那奈を演じる上でどういうことを心がけたんですか?
久保田(悠来)さん、酒井(美紀)さん、佐生(雪)ちゃんが演じた銀行強盗チームがキャラが強い役なので、那奈はどちらかと言うとフラットな人物として演じようと思いました。まわりがワチャワチャしてるぶん、普通さを出したかったんです。強盗チームのテンションの高さと那奈の冷めた感じの温度差がコメディ的な部分につながるのかなとも考えました。
──先ほどもお話に出ましたが、武田さんご自身は26歳だから、アラサー女性の那奈とは年齢差がありますよね。那奈のあせりは共感できましたか?
30歳にかぎらず、「ある年齢で自分が想像しているところにまだ行けてない」とか、そういうあせりを感じる方って多いんじゃないかなって思います。私も高校を卒業したときは一番あせりを感じていたんですよ。高校生のころは学校に通いながら女優さんのお仕事をしていたので、お仕事がないときも学校に行く時間があって、お仕事以外でも自分の居場所があったんです。だけど、高校を卒業したら役者一本で行くって決めてたから、お仕事がなければ何もない状態になっちゃうので、その瞬間が怖くてあせりを感じてました。今回、演じる上では、そのあせりを意識しましたね。でも、那奈を演じたことで30代になるのが楽しみになりました。人って数字にとらわれてしまうことが多いと思うんですけど、数字だけにとらわれちゃいけないって感じるようになったんです。
──今のお話のとおり武田さんは高校生時代に女優のお仕事を始められたわけですが、そのデビュー前に約300回オーディションを受けては落ちていたそうですね。
「月刊オーディション」さんでいろんな事務所が掲載される特集の号がありますよね。それを買ってきて、それこそ「グラビアしかやってません。歌手しかやってません」というところ以外に、全部片っ端から応募したりしていました。
──そのガッツはすごいですね!
ただ、それが正しかったのかどうか正直わからないです(苦笑)。書類で落ちることもたくさんありましたし、今の私だったらちゃんと目的や目標を持って、「自分は何でこの事務所に入りたいのか」と考えると思います。
──なるほど。ただ、やはり300回落ちてもくじけなかったのはすばらしいです! あきらめなかった理由を教えていただけますか。
悔しいっていうのが大きかったかもしれないです。オーディションで3~5人で面接を受けるときって、だいたいペアでお芝居をするんですけど、私の相手の子が後にバーンって売れたりしたんですよ。「わっ、私と一緒にやってた子が!」って、すごく悔しかったです。でも、自分もあの場にいて、同じ戦える土俵にいたんだとも考えましたね。今の事務所も2回応募して2回落ちてるんですけど、今は所属してますし、本当にどこで何が起きるか分からないので、簡単にはあきらめないでほしいです。
──現在、武田さんがオーディションを受ける機会はあるんですか?
今はハリウッドですとか海外作品のオーディションを受けています。海外のオーディション会場に行けないときは、監督がセリフとシチュエーション、絵コンテなどを送ってくださるので、動画を撮って送るようにしています。
──オーディションを受けるときは、どういうことを意識してらっしゃるんですか?
「私にはこれしかない」っていうのが、たぶん一番大きいんじゃないでしょうか。私の場合は、それがアクションで、海外作品の場合もそれで知ってもらって声をかけてくださってるので、それを見ていただけたらと思っています。私のデビュー作の「ハイキック・ガール!」のオーディションのときには面接で300人ぐらい受けて、有名な女優さんや、私より運動神経がよくてアクションができる人もいたそうなんです。あとで「私の何がよかったんですか?」と聞いたら、「"自分にはこれしかない"というものが武田梨奈にはあった」と言われました。ずっとオーディションに落ち続けていましたけど、「ハイキック・ガール!」には私がやりたかったお芝居と、大好きな空手と、夢だった映画と、全部が詰まっていたので、絶対に受かりたい、私にしかできないんだって気持ちで行ったので、それが伝わったんだなって思います。
──なにがやりたいのかハッキリしていることがオーディションで武器になるんですね。
オーディションに落ち続けてたころって、「どういうことをやりたいんですか?」って聞かれたときに「なんでもやります! やる気と気合はあります!」って答えてたんです。でも、オーディションに来てる人ならやる気と気合は誰にでもあるはずなんですよ。そこをアピールしても違うなって気づきました。それからはどういうことがやりたいのか自分の口で言えるようになってオーディションにも通るようになりましたね。
──武田さんの今後ですが、やはり海外での活動を視野に入れているんですか?
そうですね。日本の作品も大好きなので、そちらもどんどんやっていきたいんですけど。海外でのお仕事のため英語の勉強もしてます。そんなに全然ペラペラってわけではないんですけど、海外の作品や海外との合作に出演すると、現場ではアジアの方々でも英語をしゃべるので、多少なりとも英語を使えるようにならないとコミュニケーションがとれないんです。
──他に役者としてレベルアップするために心がけていらっしゃることはありますか?
ちょうど「三十路女はロマンチックな夢を見るか?」を撮り終わってからなんですけど、海外に3~4回ひとりで行きました。仕事で海外に行くときってマネージャーさんやスタッフさんが一緒でいろんな手続きもやってくれます。だから「自分を試す」じゃないですけど、やってないことをやりたいと思って、ひとりで海外の知らない街を歩き回ったり、食べたことのないものを食べたりしてます。去年はプラベートでタイに行って、パンナー・リットグライさん(映画「マッハ!!!!!!!!」のアクション監督)のアクションジムで練習させてもらいました。別のふたつのアクションチームの練習にもおじゃましました。他の国のアクション映画を見る機会はいっぱいあるんですけど、なかなか練習している姿を生では見れないですし、日本とどういう違いがあるか研究したかったんです。すごくいい経験になりましたね。
Photo/吉村永 Text/武富元太郎 Hair&Make/ISHINO Styling/山口美帆