――「僕のワンダフル・ライフ」の第一印象はどういうものでしたか?
私も主人公のイーサンと犬のベイリーのように、幼いころから一緒だったシーズーの女の子がいたので、そこはシンクロしました。犬が転生してくれるということについても、すごく「こうなってくれたら嬉しいな」と思いました。
――犬を飼ってらっしゃったんですね。
サラダという名前で、サラちゃんと呼んでました。私が生まれる前から家にいたのですが、私が1~2歳ぐらいのころに犬猫アレルギーが発覚して、サラちゃんはおじいちゃんの家に引き取られてしまったんです。でも、おじいちゃんの家にはひんぱんに遊びに行っていたので、サラちゃんと過ごした時間はたくさんありました。ただ、映画のイーサンのように10代になるとやることも出来て、おじいちゃんの家に行くことも少なくなりました。もっと会っておけばよかったなと思うこともあったので、そういう思いが救われるような、「こういうことがあったらいいな」という希望に導いてくれるような映画だと思います。
――ゴールデンレトリバーのベイリーを含めて、ジャーマンシェパード、コーギー、セントバーナードとオーストラリアンシェパードのミックスと4頭の犬が登場しますが、どの犬が一番お好きですか?
私が飼っていたのはシーズーで、室内犬としか触れ合ったことがないので、「ゴールデンレトリバーってこんなに一緒に遊べるんだ!」と思ったので、ゴールデンレトリバーかな。イーサンと私が演じたハンナとベイリーが遊んでいるのを見て、絶対楽しいだろうなって。小さいころのベイリーも可愛かったですよね。
――花澤さんが飼ってらっしゃったシーズーと違って大型犬ですよね。
こないだ馬に触ったんですけど、馬もペロペロなめるんですね。ビックリしました(笑)。大きい動物になめられるってなかなかいいなあと思ったので、ゴールデンレトリバーも近いものがあるかもしれない(笑)。純粋な優しい目をしていて、小型犬とは違った癒しがある気がします。体が大きいからぬくもりが倍以上ですもんね。
――映画では人と犬の様々な関係が描かれます。人と犬の関係について、どう感じましたか?
飼い主のイーサンは犬のベイリーがいることでお兄さんになれて、ベイリー自身も成長して。お互いに成長してるんですよね。幼いころに動物と触れ合うこと自体が心を豊かにするんだなと改めて感じました。
――まさに家族のような関係ですね。
そうですね。それに、家族に見せられない顔も、犬には見せられたりしますよね。心で通じ合うっていうのは、こういうことなのかなと思います。私も怒られて泣いていたときにサラちゃんがずーっとそばにいてくれたことが何回かあったんです。人が悲しんだり落ち込んだりしたときの心が犬に伝わっているのかなって思う瞬間がありました。
――今回、10代の少女のハンナを演じてみていかがでしたか?
私は28歳なのですが、ハンナちゃんを演じている女優さん(ブリット・ロバートソン)も同じぐらいの年で、彼女自身も自然体でティーンを演じているような気がして。外国のティーンってだけじゃなくて、ハンナがしっかりしている子なので、私の年齢で自然体でやってもよさそうだなと思いました。
――花澤さんのキャリアの中ではアニメのお仕事のほうが圧倒的に多いと思うんですが、実写吹き替えはアニメと感覚が違いますか?
最初は声を当てる女優さんとシンクロするのが難しかったです。「女優さんがこの表情だと、私の声の表情では全然足りないな」と思ったりもしました。海外の女優さんは身振り手振りも激しかったりするので、普段アニメで出しているパワーよりも、もっと大きいものを出さないとシンクロしていかないんだと実感しました。
――本作以外にも最近、実写吹き替えのお仕事を色々とやってらっしゃいますね。演技の参考になさっているものはありますか?
今、NHKの海外ドラマ(「ゲームシェイカーズ」)をやっているんですけど、そこでご一緒している方々は吹き替えでも活躍されている方ばかりなので、現場で必死に「こうか? こうか?」と観察させていただいてます。さきほどの「自分の普段どおりのアフレコのパワーだけでは足りない」ということもこの現場で教わりました。
――花澤さんはもともと子役をやってらっしゃいましたよね。そこから声優の道に進もうと思ったきっかけは何ですか?
中学2年生のときに初めてアニメのお仕事(「LAST EXILE」)をさせていただいて、高校3年生のときにまたやらせていただいたんですけど(「ゼーガペイン」)、そのころはプロ意識もすごくあったわけではなくて。お仕事がしたくてやっていたんですけど、漠然と小さいころからやっていて、「君の代わりはいくらでもいるよ」と言われてしまうぐらいの存在だったんです。なので、大学受験をきっかけに1回スパッと全部辞めようかなと思って、アニメのスタッフの方に「辞めます」と伝えたら、「辞めないで」と止めてくださって。私の声が唯一無二のものだともおっしゃってくださったんです。そんなことを言われたのは初めてだったので、ここに私ができる仕事があるんだったらがんばってみたいな、そういうことを言ってくれる人と一緒にお仕事したいなと思って。そこから今の事務所に移りました。
――オーディションを受ける際に心がけていることは何ですか?
オーディションって自分の持ってきたお芝居を見せる、割とフリーダムにやっていい、チャレンジできる場所なんですよね。なので、オーディションはワクワクします。最初のころは本当に緊張してましたし、今も緊張はするんですけど、それすらワクワクするようなことにつながっている気がします。
――これまでの声優人生の中で、成長する上でためになった経験はどういうものがありますか?
「ぽてまよ」というアニメで、冷蔵庫から生まれた謎の生物ぽてまよ役をやったことがあるのですが、「ほにゃほにゃ」とか擬音でおしゃべりする役で、そこでアドリブをいっぱい要求されたんです。「自分が思ったようにアドリブでお芝居して」と言われて、家ですごく考えたんですけど、そのときに「こういうふうにお芝居をしてたら、すごく楽しいな」と思ったんです。そのときまでは緊張が勝っていたんですけど、こういうふうにお芝居を楽しめたらいいなと納得した現場だったので、すごくためになりました。
――「僕のワンダフル・ライフ」では、犬の転生が描かれます。花澤さんは次の人生があったら、また声優のお仕事をしたいと思いますか?
「こんなに色々なことができるお仕事ってないなあ」と思っているので、やりたいですね。高校生時代にアルバイトをしていた時期もあるんですけど、もう使えなさすぎて(笑)。「私は何に向いてるんだろうか?」と思っていたので、「本当に声優でよかったな」と感じています。
Photo/松永光希 Text/武富元太郎